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『菅江真澄全集 第2巻』(未来社, 1971). pp.150,151
さきだちて蝦夷人の、としは、みそぢあまりなるが、七八ばかりの童子ひとりを誘ひてゆく。
このへカチ、岨に生ひたる卯つ木を手折、おし曲て弓に造り、木の皮をよりて弦として、親のまねびをぞしたりける。
ヘカチとてさらにたがふけぢめこそあらね、たゞ泉郎(あま)の子のやうにて色黒きわらはなれど、眼のまろまろとして耳に朱なる糸つけたれば、一めにしるし。
蝦夷人、をさなきころ鍼に紅のいとをつけ、耳鐶(ミミカネ)をさしてん料にまづこの針もて耳をさしつらぬくに、血のながるゝを見て、ことわらはぺどもの、おどろきこりてなきさまよへば、血の色もひとつに、紅の糸とのみ見なさしめんため、みな、かくぞはかりけるとなん。
はたインガレのかはりに、紅のいと、紅の絹など、さきよりてさしむすびたるもありけり。
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