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『菅江真澄全集 第2巻』(未来社, 1971). p.30
相沼(爾志郡熊石町)といふ浦に泊もとめんとて、いかりかけており、
ひんがしの海白府(上磯郡福島町)の泉郎にて、阿部たれといふもの、鯡の魚のわざすとて、この浦にいとなみをる苫小屋に宿かりつ。
こゝかしこに、いさりたくかと見渡ぱ、立ならぶ丸屋形のうちには、人あまた、ほたたき居ならびて、三の緒(三味線)かいならし歌うたふ。
陸小屋の窓よりも、ひまもる灯の光など、河辺の螢よりもしげう。
この火かげにさしうかゞへば、軒にいと高う木を立て、大口魚の肉をほじしにすとて、さきづらねかけたる魚屋とて、その臭さしのびがたく、夜はいたく更たり。
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