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『菅江真澄全集 第2巻』(未来社, 1971). p.43
ケニウチにいづれば、しばやの軒に、ゑびすめ、いたくとりかけてほしたり。
なべて比磯辺の昆布は帯のごとく細ければ、ほそめとやいふらん、ながめとやいはんとひとりごとすれば、しりより来かゝる男のいはく、
ひんがしのいそにはをよぱねど、過来給ひしウシヂリのこなたなるヒラダナヰ(平田内)のひろめは、もとめいとよけん。
それにつぎては、このケニウチにこそあらめ。
ことしは鯡のこのあたりには群来さぶらはで、させることなう、いまより、かゝるわざをし侍る。
此あたりの鯡のさかりは、海に魚の山をなし、ぜに、かねは、たゞ、ふりわくものゝやうにおぼへしに、このけかち(飢饉)にあひぬ。
さりけれど此昆布のよければ、いそくさをくひて、いのちいきよと、あめよりのさづけにや。
いつくさなき島のあはれ、おもひやるべし。
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