Up | 迷 信 | 作成: 2006-11-12 更新: 2006-11-12 |
迷信はまた,自分の無知・粗忽に対する無自覚・無警戒や,理性を自ら眠らせることからも起こる。 この度,セレウス・ペルービアナス (Cereus Peruvianus, 鬼面角) という名のサボテンが「電磁波を吸収する」の効能で流行商品になっているのを知る機会をもった。 これにはつぎの謳い文句がついている:
「電磁波とは?」の自問が起これば,この話の荒唐無稽さに考えが至る。 ところが,人間はたいていこの種の自問が起こらない。集団心理で迷信に走る。 理屈・論理・計算より,ひとが何をしているか,巷で何が話題になっているかが,行動決定に影響するわけだ。 人のこの傾向性を確認する意味から,「電磁波を喰うサボテン」の荒唐無稽を押さえておこう。 件のサボテン話では,サボテンの機能にどんなイメージがもたれているのだろう?
空中を飛び交う電磁波を,自分の方向に曲げて吸収するイメージ? 電磁波の飛び交う場を念波のようなもので破壊するイメージ? 電磁波の飛び交う場の中に,電磁波を入れない結界をつくるイメージ? 飛び交う電磁波を干渉で相殺するような電磁波を発するイメージ? 後の3つは,「取り合いようのない世界観」ということで,ここでは問題にしない。 ここでは,「吸収」モデルはダメということを確認する。
先ず,電磁波 (電波,光,X線,携帯電話の電波等) は,発生源から<直進>する。 <直進>するわけだから,<被曝>しない方法は発生源と自分の間に壁を立てること,すなわち<遮断>である。 「コンピュータのそばにサボテンを置くことで,コンピュータから発した電磁波がサボテンの方にねじ曲げられ,その中に吸収される」という話にはならない。 実際,携帯電話の電波は空中を飛び交っているわけだが,これがサボテンの方向にねじまげられ吸収されるという絵を自分で思い描けば,誰もが荒唐無稽と思うだろう。 理工学で謂う「電磁波吸収体」は,電磁波の反射を低減させるもののことだ。 せいぜい,飛び込んできた電磁波を反射させないもののこと。 言うまでもなく,飛び交う電磁波を自分の方向に曲げて吸収するもののことではない。 件のサボテンが,「反射低減」の意味での「電磁波吸収」の役目も担えないことは,その身丈から明らかである。
「発生源から<直進>してくる電磁波の被曝を免れる形は,電磁波の<遮断>でなければならない」という理屈/ロジックは,難しいものではない。 しかし,電磁波の直進性を知らない者は仕方ないとして,これをアタマでは知っている者も,「NASAの調査の中で電磁波を吸収することがわかり,NY証券取引所での効果も認められたといわれる話題のサボテンです。」のことばには,簡単にやられてしまう。
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