人体は,化学反応系である──これ以上でも以下でもない。
即ち,つぎのようなものである ( MacFarland (2016) の2章から引用・要約) :
○「必須元素」の「必須」は, 「量」と「化学反応」で説明されることがら:
- 人は,体重の約97%までが CHON
- CHON だけでつくられる分子の「形」に果ては無くても,帯びる「電荷」が限られる。
だから生命はたとえばリンP (+Mg ) を起用し,負電荷たっぷりの四面体をつくる。
- 炭素Cで立方体はつくりにくい。立方体に近い化合物は,鉄Fe と硫黄Sでつくる。
- タンパク質の場合,CHON原子の一部だけがもつ正負の電荷を巧みに使い,鎖をらせんに巻かせたり折りたたんだりして多彩な形をつくる。かたや DNA分子の方は,リン酸部分がもつ負電荷 (O−) どうしの反発を利用して,情報の保存も処理もしやすい「ほぼまっすぐな」形をとる。
- ふつう細胞の中は還元型,外は酸化型になる。
細胞が電子をためる理由には,つぎの3つがある。
- ミトコンドリア内のエネルギー発生反応に電子を供給する
- タンパク質とDNAの素材 (アミノ酸と核酸塩基),脂質,糖など,絶妙な形の分子をつくる糊として電子を使う
- 交信にも電子を使う
- 電子の運び手には,「安全輸送」しやすい2種類の硫黄化合物 (グルタチオン,メタロチオネイン) を使う。 (O, N, S は,小さくて危ない。)
○ 必須元素の分類
──生命のおもな必須元素 (21種) は以下の三つに分類できる:
- 体の素材
大半がCHONとリンP,硫黄Sの6元素 (+微量のセレン Se とヨウ素I).
骨をつくるカルシウムCa は「エキストラ」とみなす.
- 電荷バランス
細胞の中を飛び交うイオンたち.
しっかりした結合はつくらず,細胞内の電荷をバランスさせる.
主役の元素はナトリウムNa,カリウムK,カルシウムCa,マグネシウムMg,塩素Cl と,酸素を何個か結合したリンPや硫黄S.
電荷が+1のナトリウムイオンNa+とカリウムイオンK+も,+2のカルシウムイオンCa2+ とマグネシウムイオンMg2+ も,天然に量が多い.
- 触媒作用
細胞内に量が少なく,I-W系列で決まる一定の低濃度にある.
周期表の中央を占める遷移金属が多い:
Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Mo, W
たいていはM2+ 形の陽イオンだが,サイズも反応性もそれぞれちがう.
一部は化学変化の触媒 (酵素) に使うため,台所なら食品棚に少しだけ常備しておく特別な食材や調味料にあたる.
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3 の金属はふつうタンパク質に組みこまれ,タンパク質分子の形を整えるか(構造材),反応を助ける(生体触媒=酵素).
酵素の補因子(補佐役) を幅広く調べた2010年の研究によると,酵素作用の大半は,金属を納めた有機分子のつくりというより,金属そのものの性質が生み出す.
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- 引用・参考文献
- MacFarland, Benjamin (2016) :
A World from Dust : How the Periodic Table Shaped Life
Oxford University Press. 2016.
渡辺正[訳]『星屑から生まれた世界──進化と元素をめぐる生命38億年史』, 化学同人, 2017.
- 参考サイト
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