Up 農業の謂う「 土づくり」とは 作成: 2024-04-04
更新: 2024-04-04


    農業は,土壌を植床に転用する。
    ここで「転用」にはつぎの含蓄がある:
     「 植床への転用が可能で,そして土壌より都合のよいものがあれば,農業はそれを用いることになる」

    植床は,土壌とは別の概念である。
    実際,農業は最初の耕起のところで,土壌を壊している。
    農業は,土壌破壊から始まるのである。

    表土は「腐植」と呼ばれる独特な層であり,耕起はこれの破壊になる。
    腐植は,土壌生物の生態系であり,この生態系が土壌を生成している。
    腐植は,いわば土壌の生産工場である。
    耕起はこれを壊してしまう。
    土壌生産の工場を壊され,土壌は滅びの一途になる。


    農業は,滅びの一途の土壌を植床として,作物をつくる。
    作物をつくり続けるためには,植床を持続させねばならない。
    この「植床を持続させる」を,農業は「土づくり」と称している。

    土壌は土壌生物の生態系から生成されるものであって,ひとはこれをつくることはできない。
    農業の謂う「土づくり」の「土」は,土壌のことではない。


    「土づくり」として行っていることは:
    (1) 耕耘
    土壌生物の生態系がつくる土壌は,孔隙(こうげき)のフラクタル構造 (「団粒構造」と呼ばれる) を形成する。
    この構造により,土壌は柔らかい。
    しかし,耕耘はこの構造を壊してしまう。
    植床は孔隙が乏しく固い。
    これは,作物の根張りと水・栄養の吸収が悪くなるということであり,そして降水時には表面流去水が発生するということである。
    そこで,植床を柔らかくするために,耕耘する。

    (2) 施肥──無機肥料の大量投入
    収穫は肥料由来の栄養分の回収になるので,減った分を新たな肥料投入で埋め合わせねばならない。
    肥料が無機肥料になるのは,有機肥料は大量に生産することはできず,そして高コストになるからである。
    そして大量投入が必要になるのは,一つに,農業は商品作物生産であり,これは大量生産を強いられるからである。
    もう一つの理由は,団粒構造は肥料の保持の機能をもつのだが,これを壊しているために,肥料は無駄に地下に流れ落ちていくからである。

    (3) 施水
    団粒構造は,保水の機能をもつ。
    しかしこれを壊しているために,降水は早々に地下に流れ落ちていく。
    植床に水を保つためには,恒常的な施水が必要になる。

    (4)「土壌改良剤」の投入
    植床は,使い続けているうちに,pHなど,化学的性質が変化していく。
    そこで,変質を制御するための化学物質を「土壌改良剤」として投入する。


    翻って,土壌の耕起でつくった植床は,使い勝手がよいとは言えない。
    耕耘無用で水・肥料の保ちのよい植床が開発され,農業が工場生産に替えられるようになったら,現代農業はたちまちこれに乗り換えることになる。
    ひとは,自然 (蟲がウヨウヨいるところ) を嫌い人工 (蟲が排除されるところ) を好むものだからである。


      和田信一郎『土壌学』, p.217.
      肥料としては,作物の要求量が多く,土における賦存量が少ない窒素,リン,カリウム(土の含有量は比較的多いが直ちに吸収できる量は少ない)が最も多く供給される.
      現代の農業においてもっともよく用いられるのは化学肥料である.

        同上, p.216.
        [土壌改良剤としては,] 酸性化および交換性アルミニウムイオンの出現を防止したり,酸性化した土を中性化したりするために炭酸カルシウムや水酸化カルシウムが施用される.
        交換性アルミニウムと炭酸カルシウムの反応は
          2AlX3 + 3CaCO3 + 3H2O = 3CaX2 + 2Al(OH)3 + 3CO2
        で表される.
        交換性アルミニウムイオンが水酸化アルミニウムとして除去され,交換サイトにはカルシウムイオンが吸着する.
        交換性カルシウムだけでなく交換性マグネシウムも補給するためドロマイト((CaMg)(CO3)2)が用いられることもある.