|
『シュールレアリズム宣言』, pp.15,16
今日,私は,ある一つの城のことを考えている。
その城は,まだその半ばが廃嘘になっているわけではない。
その城は私のもので,パリからさほど遠くない,荒涼とした眺望のなかにたっている。
城のさまざまな付属物は,まだそのまま保たれている。
ただ内部だけは,居心地のよさという点で必要とされるものは,何ひとつ残さないように,徹底的に作りかえられている。
自動車は,樹木の影になっている門のところにとまる。
私の友達の何人かが,ここに居をかまえた。
ルイ・アラゴンが,いま出かけようとしている。
彼には,ちょっと挨拶するだけの時間しかない。
フィリップ・スーポーは,星の出るころになって起きてくる。
ポール・エリュアール,われらの偉大なエリュアールは,まだ外出先から戻っていない。
向うの庭園で,ロベール・デスノスとロジェ・ヴイトラックとが,決闘にかんする昔の法令の文書を判読している。
ジョルジュ・オーリックやジャン・ポーランもいる。
マックス・モリーズは上手に舟を漕ぎ,バンジャマン・ペレは鳥の方程式をとくことに夢中だ。
ジョゼフ・デルテイユやジャン・カリーヴがいる。
それからジョルジュ・ランブール,ジョルジュ・ランブール (そこいら中に,ジョルジュ・ランブールの人垣が張りめぐらされている)。
マルセル・ノルもいる。
T・フレンケルは,繋留気球の上から,こちらに合図している。
ジョルジュ・マルキーヌ,アントナン・アルトー,フランシス・ジェラール,ピエール・ナヴィール,J・A・ボワファール,それから誠実な美男子のジャック・バロンとその弟,その他おおぜいの青年や魅力にあふれた御婦人がたがいる。
これらの青年たちは,何ものをも拒もうとしない。
彼らの欲望が,そのまま資産なのであり,彼らは欲望のおもむくままに行動するのだ。
フランシス・ピカビヤがわれわれに会いにきてくれたし,また先週は,今まで誰も知らなかったマルセル・デュシャンという男を,鏡の間で招待した。
|
|
引用文献
- Breton, André : Les manifestes du surréalisme suivis de prolégomènes a un troisième manifeste du surréalisme ou non (1924-1942)
- 稲田三吉 [訳]『シュールレアリズム宣言』, 現代思潮社, 1961
|