Up 「第1宣言」(1924, 28才) 作成: 2020-02-27
更新: 2020-02-27


      『シュールレアリズム宣言』, pp.15,16
    今日,私は,ある一つの城のことを考えている。
    その城は,まだその半ばが廃嘘になっているわけではない。
    その城は私のもので,パリからさほど遠くない,荒涼とした眺望のなかにたっている。
    城のさまざまな付属物は,まだそのまま保たれている。
    ただ内部だけは,居心地のよさという点で必要とされるものは,何ひとつ残さないように,徹底的に作りかえられている。
    自動車は,樹木の影になっている門のところにとまる。

    私の友達の何人かが,ここに居をかまえた。
    ルイ・アラゴンが,いま出かけようとしている。
    彼には,ちょっと挨拶するだけの時間しかない。
    フィリップ・スーポーは,星の出るころになって起きてくる。
    ポール・エリュアール,われらの偉大なエリュアールは,まだ外出先から戻っていない。
    向うの庭園で,ロベール・デスノスとロジェ・ヴイトラックとが,決闘にかんする昔の法令の文書を判読している。
    ジョルジュ・オーリックやジャン・ポーランもいる。
    マックス・モリーズは上手に舟を漕ぎ,バンジャマン・ペレは鳥の方程式をとくことに夢中だ。
    ジョゼフ・デルテイユやジャン・カリーヴがいる。
    それからジョルジュ・ランブール,ジョルジュ・ランブール (そこいら中に,ジョルジュ・ランブールの人垣が張りめぐらされている)。
    マルセル・ノルもいる。
    T・フレンケルは,繋留気球の上から,こちらに合図している。
    ジョルジュ・マルキーヌ,アントナン・アルトー,フランシス・ジェラール,ピエール・ナヴィール,J・A・ボワファール,それから誠実な美男子のジャック・バロンとその弟,その他おおぜいの青年や魅力にあふれた御婦人がたがいる。

    これらの青年たちは,何ものをも拒もうとしない。
    彼らの欲望が,そのまま資産なのであり,彼らは欲望のおもむくままに行動するのだ。
    フランシス・ピカビヤがわれわれに会いにきてくれたし,また先週は,今まで誰も知らなかったマルセル・デュシャンという男を,鏡の間で招待した。


    引用文献
    • Breton, André : Les manifestes du surréalisme suivis de prolégomènes a un troisième manifeste du surréalisme ou non (1924-1942)
      • 稲田三吉 [訳]『シュールレアリズム宣言』, 現代思潮社, 1961