Up はじめに 作成: 2011-02-19
更新: 2011-02-19


    学生の「犯罪」がある。
    大学は,学生犯罪に対策している形をつくらねばならないということで,「人権・倫理」科目の開設を決める。
    このとき,科目開設のロジックを示すにおいて,「人権・倫理」の意味をわかっていないことを曝すことになる。

    犯罪は,「人権侵害」「倫理に悖る」ではない。
    実際,犯罪に対し「人権侵害」「倫理に悖る」を言う者がいたら,われわれはその者のことを変な人間だと思うだろう。 そして,「人権・倫理の意味を知らないのだ」というふうに,この者のことを理解しようとするだろう。

    ある行為が犯罪になるのは,それが「犯罪」と定められているものであって,そして目的行動としてそれが行われている場合である。 犯罪と知って犯罪をしようとしているから,犯罪なのである。

    市場では,自分が生き残るためにひとを窮地に追い込むのは,ふつうのことである。 相手が自殺することになっても,こんな形で自殺に追い込むことは犯罪ではない。 自殺した者が弱かったということになるだけである。
    しかし,ひとを窮地に追い込む行為を許し難く思う気持が,われわれには残る。 こんなとき,その行為の批判・非難に使うのが,「人権侵害」「倫理に悖る」である。

    「人権侵害」「倫理に悖る」は,つぎが構造になる:
      《自分/われわれが第一》の行動をする。
      これが,あるひと/人々に被害を与える格好になる。
      ただし,この行動は犯罪ではない。
    この構造がないところに「人権・倫理」のことばを使うと,間違いになる。

    しかし,学生犯罪への対策ということで,「犯罪はするな」を15回授業する科目のつもりで,「人権・倫理」の科目が大学の科目として立てられる。
    趣旨とやることがズレているこの授業は,当然トンチンカンなものになる。

    そこで,「人権・倫理」がそもそもどういう意味のことなのかを解説するテクストが,必要であると考えた。 そして,本テクストを作成することにした。