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宮原 (2014), pp.66,67
樹木を使って太陽の研究をする場合、できるだけ連続的に、またできるだけ昔にさかのぼってデータを取ることが重要になります。
その目的に一番ぴったりな樹木が屋久杉やブリッスルコーンパインという松の一種です。
屋久杉の場合、樹齢が2000年を超える個体があるので、非常に貴重な研究資料になります。
これは、屋久杉の中心が約2000年前につくられたということですから、2000年前の宇宙線や太陽の情報がそこに残されていることを意味します。
屋久島の場合、土壊の栄費が少ないために、成長の度合いが極端に遅く、1年に1ミリメートルにもならないほどの細い年輸を重ねていきます。
幹の外側のほうは、それよりもさらに年輪が細くなります。
そのため、2000年生きたとしても直径は2メートル弱にしかなりません。
日常で目にする切り株などで木の年輸を確認してみると、年輪の幅は1センチメートルかそれ以上にもなりますので、比較的太い木に見えても樹齢は100年もない場合がほとんどです。
ですから、正確な年代で1年ごとに2000年分の情報が得られる屋久杉はとても貴重です。
防虫効果や防腐効果を持つ樹脂が多く含まれていることが、何千年も長生きできる秘訣といわれています。
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同上 pp.106,107
木の分析を行う場合は、まずすべての年輸の正確な年代を決定します。
最初に、一番外側の年輪の年代を確認します。
伐採年がわからない場合は、炭素14の濃度を測定し、1964年の年輪に特徴的な濃度の増加を検出します。
これは、1963年に施行された部分的核実験禁止条約を前に相次いで行われた大気中での核実験によって、大量の中性子が大気中に放出され、それによって大量の炭素14がつくられ、濃度が急上昇したことによるものです。
条約の施行後は、地下核実験が主流になり、核実験による炭素14の生成は減少しました。
この1964年のピークを検出したあとは、顕徴鏡を用いて内側の年輸の層をひとつひとつ確認していきます。
年輪は、冬は成長が遅くなり、4月頃から成長が速くなりますが、その後に急に寒い時期が発生したりすると一時的に成長が遅くなり、冬に形成される色の濃い縞に似た「偽年輪」と呼ばれる層をつくることがあります。
本物の冬の材と見分けがつきにくいときもあり、縞の数を数えるだけでは正しい年代と、ずれていってしまう場合があります。
その場合は、顕徴鏡で年輪を拡大して細胞の形状を確認し、偽年輸を特定します。
年代を特定した年輪は、カッターやミクロトーム (試料を薄く切るための器具) などを使って、1枚ごとに丁寧に剥離して、α -セルロースという成分を取り出します。
これは木の年輪の骨格のようなものです。
油脂などの成分は、年輪間を移動してしまう場合があって、年代ごとの情報が混ざってしまっている可能性があるので、セルロース以外の成分は薬品で洗浄してすべて除去します。
そして質量分析装置を使って炭素14や酸素18の濃度の分析を行います。
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同上 pp.105,106
木の年輪からはほかにも、炭素同位体や酸素同位体などの分析によって気候変動の情報を得ることができます。
木の成長には、水や二酸化炭素が必要不可欠ですが、その中には炭素12や酸素16の同位体である炭素14や酸素18も含まれています。
ところが、それらの同位体は炭素12や酸素16よりも重さが重たいために、移動の際、あるいは化合物が合成される際に、存在の割合が減っていきます。
たとえば酸素18の場合、根から水として取り込まれ、そして水蒸気として葉の裏側にある気孔から出入りしますが、その際に移動しにくいのです。
したがって、葉の中に酸素18が濃縮していくことになります。
一方で、外気の水蒸気が葉の中の酸素18の濃度を希釈しています。
気候が乾燥化すると、葉の裏側にある気孔が閉じますので、外気による希釈の度合いが小さくなります。
ですから、年輪中の酸素18の濃度は乾燥化の指標となるのです。
さらに、光合成によって糖が合成される際にも、同位体の比率が変わりますが、そのときに気温の影響を受けますので、気温の情報も年輪に反映されます。
同位体の場合には、年輪幅と違って長期的な変化の傾向なども復元できるというメリットがあります。
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引用文献
宮原ひろ子 (2014) :
『地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか』, 化学同人 (DOJIN選書), 2014.
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